働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という長ったらしいものです)が、2018年6月に成立したことは記憶に新しいですね。
法律の概要は、「働き方改革法が成立!本改正の3つのポイントとは?」をご参照ください。

こうして無事成立に至りましたが、法律というのは「成立した! めでたしめでたし」では終わりません。
働き方改革関連法を2019年4月から施行するために細かな事項を定める必要があり、2018年8月時点で、厚生労働省に設置されている労働政策審議会労働条件分科会では、そのための議論が行われています。

今回はこれら項目のうち「管理監督者の労働時間把握を企業に義務づけること」をご紹介いたします。

ところで管理監督者って誰

企業で働く皆さんなら、管理監督者といわれれば「管理職」を連想し、ご自身より上座にいる○○部長、××課長といった方たちを思い浮かべるでしょう。
また、読者のなかには「われこそが管理職」という方もいらっしゃるかもしれません。
そして「管理職は勤怠管理がない人、つまりタイムカードに打刻しなくていい人」という認識をお持ちの方が多いように思われます。

さてここで疑問が浮かんできます。
管理職になると、どうして勤怠の管理がなくなるのでしょうか。
その根拠は労働基準法41条1項2号にあります。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

ちなみに、上記のうち「第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」は次のものです。

・ 労働時間(1日8時間、週40時間を超えて労働させてはいけない(法定労働時間))
・ 休憩(1日6時間を超える労働には45分の休憩、8時間を超える労働には1次かに上の休憩を与えなくてはいけない)
・ 休日(毎週少なくとも1日は休日を与えなくてはいけない(法定休日))
・ 割増賃金(法定労働時間を超えた場合、あるいは法定休日 に労働させた場合は、割増賃金を支払わなければならない)

ここまで読んでくると、以下のあくどい方法を考える経営者がいそうな気がしませんか。

「社員全員を管理職してしまえば、残業代を払わずして馬車馬のように働かせることができるのでは!」

全員野球ならぬ全員管理職……。
これほど極端ではありませんでしたが、今から約10年前、2000年代には、チェーン展開している小売業や飲食業において、店長を長時間働かせたうえに、残業代を払わなかったことが社会的にも問題となりました。

ここで労働基準法41条1項2号に立ち返ってみると、残業代等の適用が除外されるのは「監督若しくは管理の地位にある者」とあります。
以下では「管理監督者」とします。

そもそも管理監督者か否かというのは、昭和63年3月14日基発150号によれば「経営者と一体的な立場にある者で、労働時間、休憩および休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様および賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断することとなる」とされています。
少しわかりにくいので、以下のように整理してみました。

・ 経営者から重要な責任と権限をゆだねられている
・ 時を選ばず経営上の判断が要請される
・ 職務の重要性から、給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者にくらべて相応の待遇がなされている

つまり管理監督者というのは、経営者と一体の立場であることから、時間規制の対象から外れているわけですね。
ということは、一口に「管理職」といっても、「責任と権限、それ相応の待遇を与えられている管理監督者」ではなく、「管理職だけど管理監督者ではない立場」にあるならば、現状でも、時間規制の管理下になくてはなりません。
たとえば先の事例でいえば、確かに店長は「管理職」ではあるものの、「管理監督者」とはいえませんでした。

このあたりの認識を間違えないようにご注意ください。

2019年4月からは、すべての労働者の労働時間を把握しなくてはならない

少々前置きがながくなりましたが、ここで本題に戻ります。

管理監督者の労働時間把握については、2015年2月に公表された労働政策審議会建議「今後の労働時間法制等の在り方について」にて、以下のように記載されています。

1 働き過ぎ防止のための法制度の整備等
(中略)
(3) 労働時間の客観的な把握
・ 過重労働による脳・心臓疾患等の発症を防止するため労働安全衛生法に規定されている医師による面接指導制度に関し、管理監督者を含む、すべての労働者を対象として、労働時間の把握について、客観的な方法その他適切な方法によらなければならない旨を省令に規定することが適当である。
・ 併せて、面接指導制度の運用に当たり、管理監督者について、自らが要件に該当すると判断し申し出た場合に面接指導を実施することとしている現行の取扱いを、客観的な方法その他適切な方法によって把握した在社時間等に基づいて要件の該当の有無を判断し、面接指導を行うものとすることを通達に記載することが適当である。 (中略)
5 その他 (中略)
(3) 管理監督者
・ 管理監督者の範囲について、引き続き既往の通達等の趣旨の徹底を図るとともに、その健康確保の観点から1(3)の労働時間の客観的把握を徹底することが適当である。

つまり、健康管理の面から労働時間を管理するのが望ましい、ということです。

さらに2017年6月に公表された労働政策審議会建議「時間外労働の上限規制等について」では、労働時間管理の方法について、具体的に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべきガイドライン」を参考にするようにとの記述がみられます。
本ガイドラインでは、時間の把握の方法として次の2つを「原則的な方法」としています。

① 使用者が現認する
② タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録

このような流れを受け、現在の議論においては、次の事項を省令で定めることが見込まれています。

・ タイムカードおよびPCなどの客観的な記録で、すべての労働者の労働時間を把握しなくてはならない
・ 事業者は記録を3年間保存しなくてはならない

省令の整備に先駆けて、今から始めたい準備

企業としては2019年春までに、管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を把握できるような体制を整える必要があります。
タイムカードを利用している場合であれば、これまでは打刻をしていなかった管理監督者に、出退勤時の打刻を求めることが必要でしょう。
また、場合によっては社内規程を作成しなくてはならないかもしれません。

あわせて、これまで「管理職=管理監督者」としていた企業では、本当にそれが実態に見合っているのか、あらためて見直してみるのも、働き方改革という観点からは非常に重要です。

<参考>
・ 第144回労働政策審議会労働条件分科会配付資料」(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000024580_00001.html
・ 昭和63年3月14日基発150号 http://www.joshrc.org/~open/files/19880314-001.pdf
・ 「今後の労働時間法制等の在り方について(建議)」(厚生労働省労働政策審議会) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.html
・ 「時間外労働の上限規制等について(建議)」(厚生労働省労働政策審議会) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000166799.html
・ 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html