ガイドライン案が固まりつつある「同一労働同一賃金」

同一の労働に従事する労働者には同一の報酬を支給する「同一労働同一賃金」は、ドイツやフランスなどのEU諸国に普及している考え方です。日本でも「働き方改革」の柱の一つである「正規・非正規間の不合理な格差是正」を行うために、関連法案の改正準備が進んでいます。

2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布され、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月からの施行が決まりました。パートタイム労働法や労働契約法、労働者派遣法の改正などが盛り込まれています。

関連法案が施行されると、「不合理な格差」がなかったとしても、企業・労働者の双方に影響があります。また、関連法案の内容に併せて、対応しなければならない点なども生まれる可能性があります。

数年後に迫る、「同一労働同一賃金」が施行されることでのメリットやデメリット、問題点について事前に把握しておきましょう。

企業と労働者、双方への影響を考える

企業にもたらすメリットとは

社員のパフォーマンスが向上する

業務内容や個人のスキル、企業内での報酬ルールにもよりますが、正規労働者・非正規労働者を問わず、社員の多くのモチベーションがあがることが期待されています。

非正規労働者と言われている人の中には、適正な評価と報酬体系を反映されることで報酬があがる人も出てくるはずです。労働のモチベーションが「報酬だけ」ということはないですが、報酬はモチベーション維持のための重要な要素の一つです。

報酬がアップすることで、非正規労働者の方々のモチベーションが上がり、ひいては彼らのパフォーマンスの向上も期待できます。結果、組織全体の業績アップにも影響を及ぼすという効果も考えられます。

優秀な人材の定着率が向上する

上記と関連しますが、さまざまな働き方が可能になり、適正に報酬を受けることができれば、社員の満足度も上がります。結果、よりよい環境を求めて退職する人も少なくなり、優秀な人材が豊富に定着することにもつながるでしょう。

企業にもたらすデメリットとは

人件費が上昇する可能性がある

社員の報酬をこれまでと同じ水準で維持しようと思うと、人件費が上がる可能性があります。人件費が組織運用を圧迫する場合、人件費カットのためのリストラをしたり、他の部分への投資ができなくなったりする可能性もあります。口コミなどから、新規人材の採用にも影響が出ることも考えられます。

報酬差の合理的理由を社員に説明する責任が生まれる

同一労働同一賃金の導入に伴って欧州のように法改正が進むと、なぜ報酬に差があるのかを立証する責任が企業に生まれます。合理的な理由がない場合には企業が賠償責任を負う可能性もあります。

今までの評価制度が何故こうなっていたのか、理由を調査するための時間や労力がかかることが想定されます。

労働者にもたらすメリットとは

非正規労働者の報酬が上がることで、個人の経済に好循環が生まれることが期待できる

非正規労働者であることで、希望と異なる報酬しか受け取ることができず、自分がイメージするライフスタイルを送れないケースはあります。

今回の法制定で、一人ひとりが適正な報酬を受けることができれば、個人の経済状況が上向き、生活に余裕ができることも考えられます。これは「同一労働同一賃金」の導入で最も期待されているところでもあります。

より自分に合った働き方・生き方が選べる

雇用形態や勤続年数によってではなく、スキルや経験、成果によって報酬が決まるようになれば、より柔軟なワークスタイルの選択肢が広がります。「正規労働者だから・非正規労働者だから」という議論ではなく、多くの人がライフステージにあわせて仕事を選択できるようになります。

キャリアの途中でも、育児・介護などや通学などでプライベートの期間を設ける、派遣社員として専門スキルを積み独立するなど、個人の希望する働き方、ひいては生き方を模索することができるでしょう。

労働者にもたらすデメリットとは

正社員の報酬が下がる可能性がある

非正規労働者の待遇改善に伴って報酬の再分配が行われた場合、正社員の報酬が低くなる可能性はあります。とはいえ、個人が研鑽したスキルを適正に評価されていないケースは、何も非正規労働に限ったことではありません。「同一労働同一賃金」の結果、働く人の多くがより実力に合った評価がされることは好ましいことです。

フリーライダー(タダ乗り社員)の報酬が下がるのは仕方ないですが、頑張っているのに成果が出ない、ローパフォーマーと言われる従業員だった場合にも、報酬が下がる可能性があります。

企業に求められる対応やリスクについて

正規労働者と非正規労働者の仕事を明確にすると同時に、働く環境そのものを整備していく

正規労働者と非正規労働者の仕事の区分を明確にすることが挙げられます。正規労働者の待遇や報酬に対して非正規労働者のそれはおよそ60%程度といわれているので、正規労働者の仕事を100%とした場合に、非正規労働者の仕事は60%程度に調整することで従来の報酬形態を保つことはできるでしょう。

労働環境を変えていく必要もあります、モチベーションが高い人や能力のある人材には、働き方に関係なく、正当な評価・報酬を分配すると同時に、責任のある仕事も任せていくことが望まれます。

組織としていかに、働きやすい環境を作り生産性を高めていくか、効率化していくところと投資していくところを適宜見極めていく姿勢が企業には求められます。

給与支払いに自社以外が関わる派遣労働者への対応

「同一労働同一賃金」のガイドライン案は、個々の企業内での「格差是正」を目指すものでもあります。

派遣社員も多様ですが、派遣先企業の規模感や業績などもさまざまです。派遣先の企業間の格差によって、同程度の業務をしている場合でも報酬が異なるなど、派遣労働者の間で格差が拡大する懸念があります。

直接雇用の有期雇用労働者やパート社員との処遇の差をどうするかも問題です。派遣労働者に関連する特有の問題が起こりうることは念頭に置いておく必要があるのです。

労働者に求められる対応やリスクについて

適用対象外となる労働者の問題

ガイドライン案では、いわゆる正規労働者と非正規労働者といった雇用形態の違いによる不合理な待遇差を解消することが大きな目的の一つとなっています。そのため、「正規労働者同士」や「非正規労働者同士」の間で発生する待遇差は、今のところ、適用の対象外となっています。

今後、「正規労働者同士」「非正規労働者同士」の格差も法改正によって是正される可能性はあります。しかし、まず「正規・非正規間」の格差を是正する法改正が行われたあとになることが予想されます。

正社員の処遇を考え直す事例~日本郵政 正社員の住宅手当などを廃止

2018年5月、日本郵政が非正規労働者と正規労働者の待遇格差を是正する方針として「正社員の住宅手当などの廃止」を打ち出しました。この背景には、東京と大阪それぞれの地裁で『契約社員の処遇(一部手当)について正社員との差が違法である』という判断が下されていたことがあります。違法状態を解消するべく、早急な待遇差の是正に動いており、日本郵政は結果として「住宅手当廃止」という方法を選びました。

一般的な待遇差の解消方法としては「非正規労働者の処遇を上げる」という方策がありますが「正規労働者の処遇を転換させる」という方策を採用したことが大きな話題となった例です。

廃止することにした正社員の住居手当は、最大で1月あたり27,000円でした。正社員数で算出すると「毎月」約53億円、年間約636億円もの支出になります。この手当を維持しながら「非正規社員」にも適用させるのは、費用的に厳しいと労働組合との話し合いの末に決定しました。

日本郵政の件は、正規労働者と非正規労働者の処遇について、特に正社員側のテコ入れをしたものですが、これは単なる処遇格差の問題ではなく、その企業の成長戦略として何を取捨選択するかを、今一度考える必要があることを伝えています。

自身の成果を可視化する

同一労働同一賃金によって、どのような成果を出したのか(労働を行ったのか)が評価されます。正当な評価を受けていないと感じた場合には、自ら成果を人事部や経営層などに直接伝える必要もあるでしょう。

事業の利益と直結する「直接部門」であれば、自らの成果は獲得した顧客数やアウトプットの数などで伝えやすいです。しかし会社の運営を支援する「間接部門」の場合、どの程度成果を出したのか、可視化しづらいことが挙げられます。労働者が「この業務は会社にこれだけ貢献している」と伝えたとしても、会社が「この業務自体の貢献度(重要度)が低い」などと評価比重が異なるなどのミスマッチが生まれる可能性があります。

間接部門であっても、正しい評価を受け取るためには「自身の業務がどれだけ会社に貢献しているのか」を明確にし、会社とすり合わせる必要があります。「人事部門は会社になくてはならない存在」である認識のすり合わせは可能ですが、「人事部門で自分が担当した業務の、会社への貢献度合い」を意識する必要があります。

まずは自社の人事評価制度を明確にする

日本ならではの同一労働同一賃金制度の目的は「正規・非正規間の格差是正」です。企業(社会)で正しく運用されるために、関連法案の改正準備が進められています。格差是正で得られるメリットなどはもちろんのこと、対応コストなども含めてデメリットも様々あります。

関連法案の改正案が施行されたタイミングで、企業と労働者はともに対応が求められます。特に企業としては、新たな制度導入や、既存制度の見直しなども必要になるでしょう。

法律自体が変わるため、対応しないという選択は取れませんが、「同一労働同一賃金」制度が企業・労働者に対してどのような影響があるのかを事前に知り、対応施策や制度導入を検討することは、施行後の自社や社会のイメージを沸かす上でも重要です。

同一労働同一賃金制度で求められるのは「客観的かつ公平な評価制度」です。自社の社員が関わる「労働」と「労働の貢献度」を明確にし、達成具合による「賃金」を決める必要があります。「客観的かつ公平な評価制度」は離職防止にも役立つため、今からでも、自社の評価制度に「不明瞭な点」や「不公平な点」がないか見直しを行うことをオススメします。

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