戦略人事とは?日本企業における導入のポイントや障壁、事例をご紹介

最近、「戦略人事」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。

「戦略」と「人事」が組み合わさっているのでなんとなくイメージはつかめるものの、「どのような体制を戦略人事と言うのか」、「導入するにはどうすればよいのか」といった疑問をお持ちの方は少なくないでしょう。

戦略人事とは、経営戦略と人事が一体化した人的マネジメントのことです。経営戦略と人事を連動させることでスピーディー且つ最適な人事配置が可能になります。

昨今の日本経済は少子高齢化による労働力の減少や海外企業との競合の激化という課題を抱えており、問題解決の手段として戦略人事が注目されています。

「日本の人事部」の人事白書の調査レポートによると、企業の約9割が戦略人事の重要性を認識しているものの、実際に導入しているのはわずか3割ほど、というデータがあります[1]

さらに、戦略人事の重要性を理解している企業ほど、経営状態が良好という背景も見えてきました。業績の良い企業ほど、戦略人事への意識が高いということになります。

本稿では、戦略人事の意味や日本企業が導入する際の障壁についてご紹介します。

[1] 日本の人事部「人事白書 調査レポート 9割近くの企業が「戦略人事」の重要性を認識しているが、実際に「戦略人事」として機能できている企業は約3割」
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/1960/

1. 戦略人事とは?

戦略人事(Strategic Human Resource Management)とは、経営戦略を達成するための人的マネジメントのことです。経営戦略と人財マネジメントを切り離すのではなく、連動して考え、会社組織の見直しや売上の向上を目指します。

経営戦略を実現するには、経営資源である「ヒト・カネ・モノ」が欠かせません。特に、昨今の少子化が進む日本経済では、人的資源の最大化が大きなテーマとなっています。

戦略人事という概念は、1997年にデイビッド・ウルリッチ氏によって提唱され、その後、アメリカなどの海外で実施されてきました。ところが発祥が海外ということもあり、日本ではなかなか浸透しませんでした。(導入障壁について詳細は4章をご参照ください。)

しかし、グローバル化が進むにつれ、日本企業においても海外の競合に負けないために「攻めの人事」が必要といわれるようになりました。先に述べたように、戦略人事の重要性に対する認識は高まっています。

実際に戦略人事を導入する日系企業も増えています。そういった企業では、経営陣と人事がビジネスパートナーとして協力することで、スピーディーかつ最適な人材配置、経営の質向上や社会貢献の拡大などを達成しています。

人事部との違い
戦略人事と人事部の違いを、一言で言うなら「目的の違い」です。人事部は人事業務を効率的に行うために設置されます。例えば、役員会で決定した異動結果を発令したり、給与や労務管理などの業務を担当します。

一方、戦略人事は経営戦略を達成するため、人事担当者が経営者と肩を並べて人財マネジメントを行います。経営者の後ろで人的マネジメントするのではなく、経営者と同じ目線で前を向き、企業目標の達成に向けて「ヒト」を組織するのが戦略人事なのです。

2. 戦略人事が注目されている理由

戦略人事が日本企業で注目されている理由を知れば、導入を検討するヒントが得られるかもしれません。以下で見てみましょう。

2-1. スピーディーな人的マネジメントが可能になる

日本経済を取り巻くグローバル化の波を乗り切るにはスピード感のある人事が必要です。従来型の人事では、人事担当者から部長、部長から役員会へと、上申のプロセスが複雑で意思決定に時間を要しました。

戦略人事を導入すれば、人事の現場と経営層のつながりが強くなり、人事に関する提案を ダイレクトに経営会議に上げることができるようになります。時間のかかる会議等を割愛することで 、優秀な社員をより高度な業務に昇格させたり、人財を補充するためのヘッドハンティングなどを迅速に行えます。

スピーディーに人的マネジメントを最適化できる。それが、戦略人事を導入するメリットの一つです。

 

2-2. 社内全体に経営戦略を浸透させることができる

戦略人事の導入によって、経営戦略のビジョンを社内全体に浸透させることができます。

人事担当者は経営に関しても大きな責任を担うので、経営陣の思想を従業員に伝えるためコミュニケーションを図り、役員陣と現場の温度差を少なくします。そうすることで、「今、会社は何をしようとしているのか。どのような働きが求められているか」を従業員が明確に理解できるようになります。

経営陣または人事担当者だけでなく、社員全体が同じ思いを持つことで、経営戦略や企業目標の達成が可能になるのです。

2-3. 人財と企業の品質が向上する

戦略人事の導入によって、人財を適切な部署に配置できます。結果として、従業員が才能と能力を発揮しやすい環境が整い、 社員一人ひとりのレベルアップが可能になります。

従業員のレベルが上がれば、当然、企業品質・顧客満足も向上します。顧客からの信頼は経営戦略を達成するうえで欠かせない要素です。戦略人事の導入によって、従業員一人ひとりがやりがいと責任を持ち、仕事と向き合える環境が整います。

3. 戦略人事を導入するための4つの要素

戦略人事を導入する際の4つの要素を取り上げます。

HRBP
まず、人事担当者と経営者はHRBP(HRビジネスパートナー)という考え方が必要です。「人事は経営陣の後ろで指示に従っていればいい」という見方は捨てて、経営陣と肩を並べて舵を取るイメージが戦略人事には欠かせません。

人事担当者には、ビジネスパートナーとしての企業戦略の知識と理解が求められ、人事の観点から戦略を遂行する責任があります。

・OD&TD(組織開発&タレント開発)
OD(organization development)&TDTalent Development)とは、組織開発&タレント開発の略です。これらには、経営戦略を実行できる組織作りリーダー格となる管理職の育成が含まれます。組織とヒトを同時に育てる。これが戦略人事には必要なのです。

・CoE(センター・オブ・エクセレンス)
エクセレンスという言葉には、優秀・卓越という意味があります。戦略人事において、人事担当者には総合的な卓越性を発揮することが期待されます。例えば、人財開発や人事制度、新卒・中途採用などすべてに精通した、プロフェッショナルとしての仕事ぶりが求められます。

参考)
ATD(Association for Talent Development)は人事担当者のスキルを定義するため、APTDAssociate professional in Talent Development)、CPTDCertified Professional in Talent Development)という2種類の資格認定を行っています。

 

人事担当者としてのプロフェッショナル、知識、スキルを証明することができるので、戦略人事の導入に役立てることができます。ATDの活動内容については以下をご参照ください。

 

・OPs(オペレーションズ)
OPs(オペレーションズ)とは、人事担当者が行う給与計算や退社処理などの事務作業のことです。Opsにミスが多く、非効率であれば経営戦略の達成は難しいでしょう。

Ops正確性・効率性は戦略人事の基本といわれており、オペレーション部門に配置される従業員は大きな責任を担っています。

4. 日本企業が戦略人事を導入する際の障壁

日本の人事部、人事白書・調査レポートによると、日本では戦略人事の重要性を理解している企業は多いものの、実践例は約3割という結果になっています[2]。戦略人事の導入において、何が障壁になっているのでしょうか。

[2] 日本の人事部 「9割近くの企業が「戦略人事」の重要性を認識しているが、実際に「戦略人事」として機能できている企業は約3割」
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/1960/

4-1. 経営戦略が明確になっていない

戦略人事を効果的に展開するには経営戦略を明確にする必要があります。しかし、戦略人事という概念が薄い日本では、経営層にその意識が足りていない場合があります。

経営戦略は、戦略人事の基盤です。経営層には、経営戦略を明確に打ち出し、人的マネジメントを展開しやすい組織に改革することが求められます。

4-2. 人事担当者が従来の制度から抜け出せない

経営陣が明確な経営戦略を打ち出しても、人事担当者が戦略人事を十分に理解していないと攻めの人事を展開するのは難しいでしょう。日本企業では、内部公平性や年功序列制度など日本人型人財マネジメントが根強くあり、それらは戦略人事の足枷になります。

重要なのは人事担当者が従来型の制度のこだわりを捨て、経営者と同じ目線をもって人事マネジメントを展開することです。自社内に適任の人事担当者がいないのであれば、外部から引き抜く、または新規採用をかけるなどのアプローチも必要でしょう。

4-3. 従業員が変化を好まない

戦略人事を導入するには従業員の協力が不可欠です。しかし、終身雇用や年功序列制度に馴染みのある従業員の場合、戦略人事の導入に難色を示すことがあります。

新しい人事制度を導入するとリストラされたり、強制的に異動させられるなどのマイナスイメージを持っているのかもしれません。戦略人事は従業員にとってマイナスではなくプラスになるということを教育して、経営戦略に納得してもらうことが重要です。

5. 戦略人事とAI(人工知能):人員不足の解決策になるか

人員不足は日本企業が抱える問題の上位にランクインしています。近年、AI(人工知能)の開発が進み、戦略人事においてもAIを導入できないだろうか、という見方が広まっています。

人事担当者へのアンケート調査によると、肯定・否定の意見があり、可能性を期待しつつも慎重な見方が強いようです[3]
・AIで人事業務の8~9割が解決できると思う
・人工知能を効果的に利用すれば「ヒト」がすべき課題が見えてくる
・人事は調整業務が多く、AIでは対応できない
・費用対効果を考えるとAI導入は慎重になるべき

現時点では、人的マネジメントにAIを導入する事例が限られているため明確なことは分かりませんが、今後、AIと戦略人事が大きく関わっていくことが予想されます。

[3] HR総研 「人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題」
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=209

6. 戦略人事の導入の事例

国内の一部企業は戦略人事を積極的に導入しています。いくつか事例をご紹介します。

6-1. 楽天株式会社

楽天株式会社では、「グローバルな変革を起こす」を経営戦略として、戦略人事が展開されています。「楽天株式会社が重視しているのは、世にイノベーションを生み出す人財の育成。そして、変化と成長の促進」[4]。そう話すのは、常務執行役員であり人事・総務担当役員でもある杉原 章郎氏です。

従業員の能力を最大限に発揮できる環境を整えるため、働きやすい職場環境の構築を追求し、「評価・報酬」面では社内基準を見直すなどの改革を実施。さらに、従業員のコンディションや退職リスクの管理にAI(人工知能)を導入するなど最新のIT技術も取り入れています。経営戦略と人事マネジメントが融合することで、グローバル規模の成長と変化が可能になっています。

[4] 日本の人事部 「企業と人が成長し続けるための“戦略人事”~世界で戦うGEと楽天の人事に学ぶ~」
https://jinjibu.jp/hr-conference/report/r201611/report.php?sid=809

6-2. ヤフー株式会社

ヤフー株式会社には約7,000人の社員が在籍しており、「決済金融・eコマース・広告」の3分野を軸としたサービスを展開しています。会社の設立当時は、従来の管理型の人事を行っていましたが、2012年に社長が交代したことを皮切りに、人的マネジメントに関して大きな改革を実施。大胆な人事改革を100以上行ない、「 社員の才能と情熱を解き放つ」ことに成功しています[5]

従業員のモチベーションを高めるために評価制度を見直し、社員が真の姿を出せる職場環境の構築を目指しています。戦略人事が企業の活性化を加速させており、今後、さらなる成長が期待できます。

[5] d’s JOURNAL「ヤフーにおける人事戦略とは。人財開発企業に向けた取り組み」
https://www.dodadsj.com/content/190722_yahoo-kanadani/

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7. まとめ

本稿では、戦略人事についてご紹介しました。

戦略人事とは、経営戦略と人事を融合させる人的マネジメントのことです。両者が連動することでスピーディー且つ最適な人事配置が可能になります。戦略人事は従来の人事とは目的が異なり、単に人事業務を効率的に行うだけでなく、人事担当者が経営者と肩を並べてヒトを組織するのが特徴です。

昨今、戦略人事が注目されている理由は以下の通りです。
・「今」、必要な人財をスピーディーに配置できる
・社内全体に経営戦略を浸透させることができる
・人財と企業の品質が向上する

また、戦略人事を導入するには以下の要素が重要です。
BP(ビジネスパートナー)
OD&TD(組織開発&タレント開発)
CoE(センター・オブ・エクセレンス)
OPs(オペレーションズ)

戦略人事を効果的に展開するには上記の要素、全てが重要です。導入を検討する際には一つずつクリアしていくといいでしょう。

戦略人事の重要性を理解しているものの、導入を躊躇している企業は少なくありません。以下の要素が挙げられます。
・経営戦略が明確になっていない
・人事担当者が従来の制度から抜け出せない
・従業員が変化を好まない

戦略人事の導入には、大なり小なり変化が伴います。企業目標の達成に向けて、「経営者・人事担当者・従業員」が協力すること。これが戦略人事の導入に欠かせないポイントです。

楽天株式会社やヤフー株式会社などの大手企業は積極的に戦略人事を展開しており、最新のIT技術であるAIを人事戦略に組み込んでいます。

今後さらに重要度が高まると見込まれる戦略人事。あなたの企業でも導入を検討してみるのはどうでしょうか。

参考)
ミツカリ「戦略人事の導入に成功した企業事例とは?人事課題の解決事例について」
https://mitsucari.com/blog/personnel_strategy_examples/
日本の人事部「9割近くの企業が『戦略人事」の重要性を認識しているが、実際に『戦略人事」として機能できている企業は約3割」
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/1960/
HR総研「人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題」
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=209
日本の人事部「企業と人が成長し続けるための“戦略人事”~世界で戦うGEと楽天の人事に学ぶ~」
https://jinjibu.jp/hr-conference/report/r201611/report.php?sid=809
d’s JOURNAL「ヤフーにおける人事戦略とは。人財開発企業に向けた取り組み」
https://www.dodadsj.com/content/190722_yahoo-kanadani/

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