事例:中国進出企業のスタッフ教育 eラーニング受講率80%を実現するまでの取り組み 〔物語(上海)企業管理有限公司〕

「世界の工場」から「世界の市場」へと躍進を続ける中国。1万社を超える日本企業が中国に進出していますが[1]、中国市場で成功しているのはほんのひと握り。中国におけるビジネスの難しさにはさまざまな要因が挙げられますが、そのひとつに文化や風習の異なる現地スタッフの教育があります。さらに、高い離職率の問題もあり、「教育しても辞めてしまう」との声も聞かれます。

日本で「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」等を展開する株式会社物語コーポレーション(以下、物語コーポレーションという)は、2011年に上海現地法人「物語(上海)企業管理有限公司(以下、物語上海という)」を設立。その後、2012年に上海に初出店。現在までに「北海道 蟹の岡田屋総本店」「薪火焼肉 源の屋総本店」を含む4業態・計18店舗を展開し、中国での事業を拡大し続けています。

物語コーポレーションは日本では積極的にインターナショナル社員(外国籍社員)を採用していましたが、そのような実績を持つ企業であっても、上海でのスタッフ教育では大きな課題を抱えていました。企業の成長のためには多店舗展開が必須。しかし多店舗展開時には多くのスタッフを採用しなければなりません。初期教育がうまくいかないと、店ごとのサービスレベルにムラが生じ、お客様満足度の低下を招くリスクがありました。

そこで、物語上海では2016年5月に学習管理システム「CAREERSHIP®」を導入。管理層向け教育機関である「物語餐饮大学:MONOGATARI FOOD BUSINESS ACADEMY)」とあわせて人財教育を体系化。技能考課の仕組みとeラーニングの内容を結びつけることでスタッフの学習意欲を高め、80%超のeラーニング受講率を実現しました。

その具体的な秘訣とは?今回は、中国進出で避けては通れないスタッフ教育の難しさと成功ポイントについて、物語(上海)企業管理有限公司 事業推進本部 岡藤裕太本部長、同 物語餐饮大学 王新昕校長にお話を伺いました。

[1]帝国データバンクの調査によると、2019年5月時点で中国に進出している企業は1万3685社。
 https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p190509.html

1. パラダイムシフトからのスタート

―現在、中国では18店舗を運営していらっしゃるとのことですが、社員は何名いらっしゃいますか?また、日本から派遣された方と現地採用スタッフの比率はどのくらいでしょうか?

岡藤様:全体で700名くらいです。そのうち、日本から派遣された社員が13名(うち6名は中国籍社員)で、他は中国での採用なので、98%が現地採用ですね。

―御社は日本では積極的にインターナショナル社員を登用していらっしゃいます。異なる文化・思想・価値観を持つ社員の教育には慣れておられるように思いますが、日本と上海での違いはありますか?

王様:全く違いますね。日本で採用したインターナショナル社員は、日本人の社員同様、大卒で、就職活動をする中で小林会長(現:物語コーポレーション 取締役 特別顧問)のセミナーを受け、会社の理念に共感して入社した人たちです。上海の採用の場合、学歴は中卒や高卒が多く、上海で働きたくて田舎から出てきた若者が多くを占めています。

岡藤様:工場・小売・フードビジネス業などの労働集約型産業の現場社員は、入社のハードルが低い業種といわれています。特にフードビジネス業はまかないが付きますから、そのような若者たちにとって安心して入社できる業種です。
入社段階では、フードビジネス業を志して入社した人や、物語上海の理念に深く共感して入社した人が少ないため「お客様が一番大事。お客様に満足していただくことが我々の使命だ」と言っても最初は理解してもらえません。たくさんの仕事ができる=お客様から喜ばれる=給料もあがる、という風に、自分が働くこととお店のサービスの関係について、入社してから段階的に理解・共感してもらう必要がありました。

―理念に共感して入社する日本の社員とは、そもそものスタート地点が随分異なる、ということですね。

2. 多店舗展開のリスクを乗り越えるスタッフ教育を

―御社の教育体系はどのようになっていますか?

王様:当社の教育は、管理層向けと一般社員&アルバイト向けとで大きく分かれています。管理層向けには、教育機関「物語餐饮大学」があり、本社で月に1回研修を実施しています。管理層である支配人・副支配人・料理長・副料理長に、リーダーシップや店舗マネジメント等について教えています。一般社員&アルバイトは管理層によるOJTとeラーニングで、挨拶や身だしなみといった基本事項や、メニューやオペレーション等について学びます。
管理層はトレーナーとして模範演技(スタンダードを理解し実践できている人)が求められるため、自主的にeラーニングを見て学んでいます。

―eラーニングを導入した背景を教えてください。

岡藤様:我々のようなフードビジネス業界では、、人にしかできない部分で付加価値を提供し差別化をしないと生き残っていけません。お客様の前で調理をしたり、料理に関して丁寧に説明したり、メニューを拡充していったり・・・、そういった日本流の高品質なサービスを提供することが重要と考えています。1店舗であればモデルとなる管理層による模範演技とOJTメインの教育でもスタンダードは保たれますが、多店舗展開を進めるほどに難しくなってきます。店舗数が増えてスタッフが増えてもサービスレベルを維持できるよう、「スタンダード」を明確にして効率的に教育を進める、そのために文字ベースのマニュアルではなく、eラーニングでの「見える化」が有効と考えました。

3. 動画教材は長くて3分。「見たらすぐ使える」が基本

―eラーニングにはどのような教材がありますか?

王様:特徴的なものとしては、店舗のオペレーションや商品説明、調理方法などの内容ですね。動画には、店舗のエース社員が出演しています。笑顔で接客できている、身だしなみ・所作がきれいなど、模範となるスタッフをピックアップして出演してもらっています。出演した本人もモチベーションが高まりますし、見ているスタッフも、知っている人が出ているので見たくなる、という相乗効果があります。メニューは季節ごとに変わりますので、最低でも3か月に1度は新しい動画を追加しています。又、サービスのブラッシュアップ・調理方法の見直しで追加の基準が出来た場合にはその都度動画をアップしています。

岡藤様:動画教材は、「見たらすぐ使える」内容であることを意識しています。例えば、リーダーシップやチームビルディングの動画を見たからと言ってすぐに身に付くものではないと思います。そういう内容は物語餐饮大学の集合研修で繰り返し学んでもらって、eラーニングは、見て、その動きをコピーすればすぐに実践できるもの。例えば、岡田屋の看板商品に蟹鍋があります。「お客様のテーブルでお出汁を鍋に提供する(追い鰹)」というオペレーションがあるのですが、文字だけのマニュアルだと、どれだけ細かく記載してもイメージすることが難しく、あるべき姿の再現性は低くなってしまいがちです。でも、我々が考えるスタンダードの手順はこれですよ。と、動画教材として「見える化」すれば、誰でも理解でき、実行することができます。

<学習画面>

王様:PCを持っているスタッフは限られていますが、携帯電話はみんな持っていて、移動中や家に帰ってから動画を見ているようです。気軽に見られるように動画教材はどんなに長くても3分に収まるように意識しています。

4. 「できることが増える→お客様に喜んで頂ける→給料が上がり自身の成長にも繋がる」
仕組みでモチベーションを醸成する

―eラーニングは受講率80%以上とのことですが、受講を促す工夫はされていますか?

岡藤様:月に1回、技能考課の見直しを設けています。まずは自分が習得することで給与があがり、さらに人に教えられること(トレーナーとして稼働)で給与があがる制度をつくりました。eラーニングの視聴はマストとなっており、スタンダードを理解し習得するために「動画=あるべき姿」を繰り返し見て自分ができるようになるために積極的に学んでいる様子が見られます。給料を上げるにはどうすればいいかが明確で、学ぶべきことを提供すること、それがどこでも誰でも見られる環境をつくることが大切だと考えています。

王様:新しい動画をアップした時には管理層に発信していることと、eラーニングの受講状況を月1回、管理層にフィードバックしています。全店舗分のレポートを共有しているので、自分の店舗を良くしようと、いい意味での競争心も生まれています。各店舗のMVPを選出する制度があるのですが、eラーニングの受講状況をMVPの選定条件として重視したり、それぞれの店長が工夫してスタッフに働きかけているようです。もちろん、我々やエリアマネージャーたちのサポートも重要です。

―キャリアについて考えたことがないところからのスタートというお話でしたが、学習意欲は高いのでしょうか?

王様: まず、どうすれば給与が上がるのかを明確に伝えています(先ほどの技能考課の仕組み)。
自分が接客するだけだったところが、新人を教える立場になったり、何かの仕事を任されたりするところまで成長すると、給料とやりがいが一致し始めて、続けようという意欲が出てきます。そして、それくらいのレベルになると、物語餐饮大学に入れるようになります。物語餐饮大学参加者の退職率はさらに低いので、物語餐饮大学まで引き上げるのをeラーニングでやっていき、その後はアカデミーでさらにモチベーションを高める、という風にできるといいなあと思います。

5. 導入の効果:スタンダードを見える化しサービスレベルを維持

 

― 学習管理システム「CAREERSHIP®」導入の効果をどのように感じていらっしゃいますか?

岡藤様:たらればの話になりますが、もし「CAREERSHIP®」を入れていなかったらどうなっていただろうか、と。おそらく今のような形で事業展開できていなかったと思います。というのも、eラーニングを導入したことで、我々が求めるサービスレベルのスタンダードを見える化できたことが本当に大きいです。あるべき姿、立ち戻れるところとしてeラーニングが機能しています。直営店だけでなく、FC契約をしている企業にもeラーニングを開示し、スタンダードを理解してもらっています。

<基本的な作法を学習する教材>

<調理方法を学習する教材>

―現場でのeラーニングへの評価はいかがですか?

王様:管理層からの評判はとても良いです。eラーニング導入前は全て管理層が教えていたものが、教える前にみんなが動画を見てくるようになったので、できていない部分を集中してOJTをすることで成長が早まりました。ベースのレベルが上がり、管理層がやるべきことに集中できるようになりました。

6. 今後の展望

―今後、「CREERSHIP®」を活用してどのようなことに取り組まれたいですか?

王様:9月に「焼肉王」という新業態の店舗をオープンしました。当社としては初めてのファーストフード形式のお店です。スピードが重要な現場なので、スタッフは即座に判断し行動することが求められます。そういったことも踏まえ、今後は「こんな状況であればこういう風に対応する」ということがわかるケーススタディの教材も追加していきたいと考えています。

岡藤様:将来的には、現場をカメラで撮影して、調理手順・盛り付け方・温度などがスタンダードの通りにできているかAIで判定するようなものができるといいなと思っています。ここが良くできていたよ、とか、eラーニングのこの教材を勉強すればもっとよくなるよ、というようなモチベーションがより上がる使い方ができると理想的です。

7. まとめ

中国進出企業にとって事業拡大のために避けて通れないスタッフ教育。やる気が長続きしない、事業への共感が薄い、というところからの難しいスタートではありますが、どうすれば給料が上がるのか、そのために身に付けるべきことは何なのかが明確に提示されていること、動画というわかりやすい学習素材がeラーニングで用意されていることで、スタッフのモチベーションが醸成され、さらに管理層を目指す社員も出てくることがわかりました。

本文からは漏れてしまいましたが、インタビューの中で岡藤本部長が「国としての個性はあるし文化・風土の違いはあるが、悩んでいるところは結局一緒。頑張って成長してお金を稼ぎたい、というのも日本人も中国人も一緒。」とお話されていたことが印象に残っています。

文化・風土の違いを踏まえ、スタッフを成長曲線に乗せるためにはどんな仕組みが必要か。その仕組みを用意してあげられれば、その先は国籍関係なく、意欲のある人がさらに成長し、事業に貢献していってくれるのではないでしょうか?物語(上海)企業管理有限公司様の事例は、そのことを私達に教えてくれているように思います。

ライトワークスでは上海法人の常駐スタッフが中国進出企業のみなさまの人材教育を支援しております。

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