欧米・欧州での「同一労働同一賃金」の考え方とは

「同一労働同一賃金」は、職務内容が同じ労働者に対しては、雇用形態などに関わらず同一の賃金を支払うべきという考え方で、ドイツやフランスなどのEU諸国や米国などで普及している考え方です。

EU諸国で一般的に展開されている内容は、「人権保障」の観点・法律に位置づけられており、性別や人権、障がいなどの事情で生じた差別や、宗教や信条などを理由とした差別を禁じる原則に則って扱われています。日本で議論が進んでいる「同一労働同一賃金」制度は、EU諸国と比較すると、いくつかの違いがみられますが、日本を大きく先行する欧米諸国の前例に学ぶところは多くあります。

日本での運用も数年後に迫る中、このテーマについての理解を深めるためにも、欧米諸国でどのように普及してきたのか、その考え方や変遷などを知識として持っておくことは、非常に重要です。

欧米・欧州での「同一労働同一賃金」の歴史と推進されてきた背景

フルタイム・パートタイム労働者の待遇格差の現状

欧米の職種別労働市場では、同じ仕事をする人を性別、年齢、人種、宗教等によって賃金に差をつければ、差別に当たるとして禁止されています。人権保障だけでなく、労働者の利益の観点でもとらえられているものです。

EU諸国では、フルタイム社員とパートタイム社員が同じ仕事をしている場合、1時間あたり同じ賃金を支払う「均等待遇」を「EU指令」によって加盟国に義務付けています。

たとえばドイツでは、パートタイム労働者の時間あたり賃金がフルタイム労働者の8割となっています。フランスでは9割とほぼ正規雇用者に近い水準と言えます。一方日本では6割弱になっており、正規・非正規間の格差が大きいことが一目瞭然です。

諸外国のフルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金水準
出典元『総務省』「地方公共団体の短時間勤務の在り方に関する研究会」説明資料

米国では、労働法などによる明確な規定はないものの、差別の観点で不当な扱いを受けたと労働者から訴えがあったときには、企業が「差別をしていない」という立証責任が課せられる点で、大きな圧力になっています。

欧米・欧州における「同一労働同一賃金」の概念が導入された歴史

欧州での「同一労働同一賃金」制度の歴史は古く、1919年のヴェルサイユ条約(第一次世界大戦における連合国とドイツの間で締結された講和条約)での、『同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受けるべき原則』(第13編第2款第427条)から始まったと言われています。

第二次大戦後の1951年には「ILO100号条約(日本は1967年批准)」で、『同一価値の労働に対して男女労働者に同一の報酬に関する条約』を採択。続く1958年には、「ILO111号条約」で『雇用及び職業についての差別待遇に関する条約』を採択し、就労の現場での処遇の平等性を謡ってきました。

「EU指令(1997 年EUパートタイム労働指令、 1999 年EU有期労働指令、2008 年EU派遣労働指令)」において、雇用形態における「均等待遇原則」を策定されています。非正規労働者の処遇改善の観点から、賃金を含むあらゆる労働条件について、雇用形態を理由とする不利益取扱いを禁止するとされています。

EU指令は現在、各国に適応しており、現在は、見習いの訓練生においても法定福利、社員食堂の利用などの福利厚生の利用や支給、契約社員やパートタイム労働者にも、在籍条件に応じて各種手当やストックオプションや賞与、交通費、退職金などの面で、通常の社員と同程度の待遇が約束されているのが一般的です。

米国では、移民など多民族で形成されてきた国家であることが歴史的背景としてあります。人種や女性、年齢などに対する差別を禁止する「雇用平等法制」が発達している点で、「同一労働同一賃金」の観点が活用されてきました。ただし、雇用形態を超えた均等処遇については法制化はなされていません。

アメリカ社会の特徴として「市場における公正な競争」や「契約の自由」を重んじることに起因していると言われています。1980年代以降『ペイ・エクイティ運動』が活発化し、職務賃金が確立され、同様の仕事をしながら賃金に大きな差が生じる事象は減少しています。

「同一労働同一賃金」が普及している労働市場の特徴

昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授の八代氏は、「同一労働同一賃金」が広く浸透する欧米・欧州の労働市場には日本とは異なる4つの特徴があると、外資系人材サービス企業Adeccoでのインタビューで解説しています。

欧米の労働市場における四つの特徴
出典元『THE ADECO GROUP』海外事例から見る「同一労働同一賃金」の可能性

基本的に「職務」に対する報酬や責務が明確で、曖昧な条件がほぼないところが日本との大きな差だと言われています。

参考までに、日本経団連が「同一労働同一賃金」の実現に向けて「同一労働同一賃金」制度の在り方や課題についての発表でも、日本と欧州との違いが分かりやすく比較されています。

日欧の賃金制度、雇用慣行、法制度の比較
出典元『一般社団法人 日本経済団体連合会』同一労働同一賃金の実現に向けて《概要》

欧米・欧州における「同一労働同一賃金」の現状

EU諸国で「同一価値労働同一賃金」への取り組みが進んだ背景には「職種と役割に応じた賃金制度が、全国レベルの産業別の労働協約によって整備されていたこと」「キリスト教の宗教観に基づいた共通認識」が挙げられます。

近年、先進的な取り組みを推進してきたEU諸国で新しい働き方の動きが見られています。「長期キャリアによる雇用制度の導入」です。

数年前からフランスでは、長期キャリアによる雇用制度を実現するため、企業の中で労使交渉が実施されています。同じ職務であっても、長期キャリアコースの場合は年次が進むと賃金カーブが上昇するという労働協約を締結する、という事例もあります。フランスの事例については、「同一労働同一賃金」の例外として許容されるという判決がすでに出ています。

企業間・グローバルで競争が激しくなる現在のような時代において、企業内でキャリアと経験を積み、培った能力を最大限に発揮してもらいたいという、いわゆる“日本的な雇用の考え方”も、一部で見られるようになっています。

EU諸国の中でも、特にオランダやデンマークなどが「同一価値労働同一賃金」の成功事例として取り上げられることが多いです。成功要因の一つは国の規模にあるとも言われています。規模がコンパクトなため、公労使の同意後にその制度を現場でスムーズに運用しやすいのです。

EU諸国の現状や成功事例も、その背景や要因なども踏まえて、日本の実態に合わせてアレンジしていくことが求められています。

 

最近の米国の動きでいうと、マサチューセッツ州で、今年7月から施行された『平等賃金制定法(An Act to Establish Pay Equity)』 が州の法律として昨年調印されたことが挙げられます。平等賃金制定法では、マサチューセッツ州の雇用主に対して、性別に関係なく「同等の仕事」には同一賃金を支払う義務を課しています。雇用主が採用候補者の賃金について質問することを禁じています。

マサチューセッツ州では女性団体を中心に、賃金の平等を求める動きが30年以上前から活発に行われている地域で、近年ではボストンの100社以上の企業が参加し「男女の賃金格差」を解消する取り組みが実施されています。元々、平等賃金への雇用主の支持が集まっていたという背景もあります。

米国ではすでに、カリフォルニア州やニューヨーク州などで、「同一労働同一賃金」に関連した法律が施行されているのと同時に、同様の法案が数州で検討されています。中でもマサチューセッツ州の『平等賃金制定法』は、その内容から「全米で最も進んでいる」法律と評価されており、他の州に影響を及ぼすかが注目されています。

日本では特に、同一労働同一賃金における問題の目玉が「就業形態間の差異」にあるのとは異なり、米国では「男女間の賃金の差異」が問題視され続けています。たとえば、白人男性労働者の賃金を1ドルとし女性労働者と比較すると、フルタイムで働く女性の全国平均賃金は78セントです。マイノリティ層の女性の平均賃金はさらに低く、ラテン・アメリカ系女性平均賃金は56セントで賃金格差は歴然です。

米国では50年以上前から「平等賃金法」が施行されており、同一労働に対する男女の賃金差別は実際には禁止されています。しかし、不十分な賠償規定など「法の抜け穴」も多く、賃金面での男女差別を禁止した最初の法律という点で大きな意義はあるものの、効果的ではないと言われてきました。

実効性に欠ける点を問題視し、議会では2008年以降「賃金公正法(Paycheck Fairness Act)」を検討してきました。賃金公正法では、賃金格差は性別ではなく、業務内容の違いなどにより生じていることを雇用主に証明させることや、賃金を公にした従業員を雇用主が処罰しないことなどを明記し「平等賃金法」を強化する狙いで構成されています。ただ、法律が訴訟を誘発する恐れなどの逆のリスクも危惧されており、起案と却下を繰り返しているのが、米国の現状です。

欧米との歴史や社会制度の違いを理解し
「日本式同一労働同一賃金」を構築するために

同一労働同一賃金制度はフランスやドイツではすでに広く活用されていますが、どのように歴史の中でその変遷があったか、現状の仕組みなどは、日本とは全く異なるものです。

欧米の先進的な取り組みにも、それぞれメリットだけではない問題点もいまだ存在しています。欧米や欧州の事例を参考にしつつ「日本式の同一労働同一賃金制度」についてどうあるべきかについて、現在議論が進んでいます。

日本企業の雇用形態や評価制度に沿った「同一労働同一賃金」制度が検討されていますので、歴史的な背景も含めて、具体的にどのように異なっているのかを知っておくことが大切です。

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