正規・非正規間の格差を是正する「同一労働同一賃金」

「一億総活躍社会」を目指し、女性の社会進出や子育て世代へのサポート、若年層の就業支援など、現政権はここ数年、さまざまなワークスタイルに関する法案を打ち出しています。2018年は『長時間労働是正』と『正規・非正規間の不合理な格差是正』という雇用の2大テーマへについての法整備が進むと同時に、これからの10年、20年先を見据えた「AI」など、新しい雇用のテーマについての議論が始まる年でもあると言われています。

ここ数年さまざまな事件があり、社会的なニュースとして取り上げられることの多かった「長時間労働是正」と、さまざまな形で議論されてきた「正規・非正規間の不合理な格差是正」は、10年以上前から日本的雇用の重要な課題として指摘されてきたものです。

「同一労働同一賃金」とは、大きくいうと『日本ならでの待遇格差是正』のことです。性別などの属性や働き方の違い(正規・非正規など)による、合理的でない賃金・待遇の格差を是正し、多様なワークスタイルを実現できるよう促す取り組みを指しています。2016年12月に働き方改革実現会議によって「同一労働同一賃金ガイドライン案」が打ち出され、2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」が公布されました。

同一労働同一賃金の概要と日本における実態とは

同一労働同一賃金は、言葉の意味の通り、同一の労働を行った場合に同一の賃金を支払う仕組みです。欧州では一般的となっており、日本も欧州の制度を参考にした形ではありますが、実態は異なります。

欧州の雇用形態と日本の雇用形態が大幅に違うため、政府や経団連の落とし所としては「日本式の同一労働同一賃金」制度が検討されています。言うなれば、欧州では「同一労働同一賃金」となりますが、日本型の場合は「同一業務同一賃金」のようなイメージです。

「同一労働同一賃金」とは?

『同一労働同一賃金』とは、職務内容が同じまたは同等の労働者に対しては、同一の賃金を支払うべきという考え方です。1900年前後から、性別や人種などによる違いを設けずに、同じ労働には同じ対価=賃金を支払うべきという考え方をもとに、欧州諸国を中心に展開された賃金と働き方に関する原則です。

同一労働同一賃金は、陸続きの国々であるため、移民などによって様々な人種の方が働くからこそ重要視された概念です。国によって細部の異なりますが、現在は、欧米をはじめとする先進国の多くでは一般的に普及しています。

欧米の職種別労働市場では、同じ業務に携わる人を性別・年齢・人種・宗教などによって賃金に差をつけることは、差別として禁止されています。実際に、すべてがこの通りに運用されているわけではありませんが、この考え方に則ることが労働市場での原則となっています。この背景には、人権保障だけでなく、労働者の利益の観点があると言われています。

EUでは、フルタイム社員とパートタイム社員が同様の業務に従事している場合、1時間あたり同額の賃金を支払う「均等待遇」を「EU指令」によって加盟国に義務付けています。米国では、労働法などによる明確な規定はないものの、差別の観点で不当な扱いを受けたと労働者から訴えがあったときには、企業が「差別をしていない」という立証責任が課せられる点で、大きな圧力になっています。

海外(EU)と比較した、日本における「同一労働同一賃金」の実態

欧米で導入されている「同一労働同一賃金」をそのまま日本で展開することは、実際には難しいというのが有識者による認識です。

日本の雇用形態が、個人を評価対象として給与を決める「職能給」であるのに対して、欧米などでは、仕事内容やスキル、ポスト=「職務」を明確にして採用され、必要なスキルや知識で評価する「職務給」を採用している、という違いがあります。「職能給」は、職務が同じでも職能(職務の遂行能力)が高まれば賃金も上昇する、という考え方です。

日本の正社員の給与体系は「職能給」の性格で、さらに「年功序列」という日本独特の制度の上に成り立っており、本当の意味で一人ひとりの職能を厳格に評価し待遇を決定する、というスタイルではありません。

欧米の職務給と日本の職能給の考え方と特徴
出典元『Adecco』「同一労働同一賃金」現状とゆくえ

働く社会の土壌そのものが異なり、仕事に対する解釈が違う欧米の「同一労働同一賃金の方式」をそのまま採用できない事情は、雇用形態の違いの影響が大きいと言われています。

待遇差
出典元『Fledge』「非正規」という言葉がなくなる!?同一労働同一賃金とは?

日本型の「同一労働同一賃金」の目的

日本で導入が検討されている「同一労働同一賃金」は何を目的としているのでしょうか。作成中のガイドライン案では、次のように定義されています。

同一労働同一賃金は、 いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用 労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。

引用元『首相官邸』同一労働同一賃金ガイドライン案

日本における今回の活動の目的の一つに「均等待遇」、「同一の貢献をした人には雇用形態に関係なく同一の支給をする必要があり、貢献度に一定の違いがある場合はその違いに応じて差を付けなければならない」点が挙げられます。誤解のないようにしたいのは、これが「正規」「非正規」という観点だけの問題ではないということです。均等待遇とは、業務や配置変更の範囲が同じである場合、給与や福利厚生などの扱いも同等に行うことを指します。

現政権は、非正規雇用者の賃金水準を上げることで中間層を増やし、消費活動を促すことも狙っています。収入が安定することで、たとえば家族を持つなどの個人の選択肢が広がり、経済自体を押し上げ、少子化への歯止めなどにもつなげる狙いがあります。

「同一労働同一賃金」が注目されるようになったのは、働く人のおよそ4割まで非正規社員が増えたこと、海外と比較した場合に非正規社員の待遇が低く、待遇格差を是正することが求められたことが背景にあります。欧米では、パートタイム労働者の賃金水準が、フルタイム労働者より2割ほど低い(時間当たり)のに対して、日本は4割程度も低い状況にあるという統計もあり、こういった問題が注目を集めたという意見もあります。

ガイドラインでの具体的な「不合理な待遇差」の一例

賞与に関する「合理的な待遇差、不合理な待遇差」の一例を記載します。日本式の同一労働同一賃金において、職務の中には「責任」なども含まれています。飲食店などで、店長やアルバイトが同様の調理業務などを行っていても、数字(店舗運営)に対する責任を持っているのかいないのかで合理性が判断されます。逆にアルバイトやパートにも数字責任がある場合には、待遇差を埋める必要があります。

合理的な待遇差の例

正社員Aは、売上や数値目標に対する責任を負い、正社員BとパートタイムCは、それらの責任は負わず目標未達の場合もペナルティーはない。その状況で、Aは賞与があり、BとCは賞与がない。

不合理な待遇差の例

正社員AとB、パートタイムCの3人の会社業績に対する貢献度は同じ。しかし、CはAやBと同じように賞与をもらうことができない。

「同一労働同一賃金」をテーマに働き方を考える

「同一労働同一賃金」は、欧米などではすでに広く展開されていますが、特定の業務のみを行う雇用形態と様々な業務を経験させる日本の雇用形態では、単純に言葉の意味通り置き換えることは難しいです。経団連なども、日本式の「同一労働同一賃金」の構築が重要だと考えており、現行のガイドライン案を読み解くと、反映されていることがわかります。

労働者としても当然ながら、人事担当者・経営者として、日本式の同一労働同一賃金に対する正しい知識を持っておくことが大切です。まだ法改正の準備段階ではありますが、「責任」などの目に見えない部分も含めた「職務」を明確に定義しておくと、法改正後に役立つでしょう。

さまざまなワークスタイルを総合的に鑑みる視点をもち、「日本式の同一労働同一賃金制度」についてどうあるべきかなどを、今一度一人ひとりがしっかりと考えておく必要があるのです。

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